諏訪泉 純米吟醸「満天星」

kafka_y2005-06-18

 先日、ふと立ち寄った酒屋で冷蔵庫の片隅で、物々しくも箱入りの酒が目に止まった。そもそも、それほど期待して入った酒屋ではなく、ただ、新潟の有名「地酒」を売りにしていないことに、かえって好印象を受けてぶらりと立ち寄った。見れば「満天星」と独特の書体で書いてある。あの諏訪泉の純米吟醸である。これは、と思い店の奥から出てきたご主人に値段を尋ねると、彼は言いづらそうに「もともと、三千円で出していたんだけど…」なにか事情があるのかと更にたずねると「ちょっと古いんです」。よく見れば、八年も前の製造年が。どうやら倉庫に忘れられて眠っていたらしい。しかし、火入れ酒だし、箱入りでずっと冷蔵されていたと聞いて、かえって貴重な酒だと思い始めた。「味は保証できない分、二千円で」ということで交渉成立。帰って呑んでみると、歳月を感じさせないフレッシュな香りとピンと一本スジの通ったキレの良さ、更に歳月によって、日だまりの野原のような温かい味の乗った日本酒に育っていて、とても良い買い物をしたとほくほくした思いで盃を重ねたのだった。

 その一、二週間ばかり後、「諏訪泉」の岡杜氏が事故でなくなったことを知った。思えば八年も過ぎて全く劣化しないばかりか、味が乗っているのは、何よりも真っ当な造りの酒である証拠である。それを我が舌で楽しんだ矢先に岡氏の訃報を知ったことになる。 氏が杜氏を務めてまだそれほど長いことではないらしいので、件の酒が岡氏の造りによる物かどうかは不明だが、いずれにしろ、氏がその造りに携わられていたことは間違いない。本当にまだまだたくさん良い仕事が期待されていただけに、とても悔しい思いと、そしてひたすらに悲しい。あらためて、心よりご冥福をお祈りします。合掌。

 そして、全国のまじめで一生懸命な酒蔵が、今日もおいしいお酒を醸してくれていることに感謝!杜氏の技と、蔵人たちの情熱に拍手!酒を育む水と風土、麹菌、酵母菌、乳酸菌にも!

ありがとう、今宵もいただきます。